僕が一番好きなアーティストはと訊かれると(訊かれないですが)さんざん迷った上にザバダックか東京スカパラダイスオーケストラかどちらかだと言うことにしているのですが、そんなザバダックの中でも一二を争うくらい好きなのがこのアルバムです。この頃のザバダックは故・吉良知彦のソロで、奥方である小峰公子とアイリッシュ・ハープの木村林太郎、アコーディオンの藤野由佳をサポートに(一部ゲストにパーカッションの楠均を加えつつ)往年の代表曲を再録した、いわば『再録アコースティック・ベスト』といったものなのですが、これが僕にとって衝撃的なアルバムでした。そもそもロック耳でありディストーションに慣れすぎていた僕はアコースティック・アレンジとされるものが本当に苦手だったのですが(今でもものによっては苦手意識がある)、今作の見事なアンサンブル、アレンジの面白さ、それらを捉えた録音の異様なまでの良さ(マジで世の中の録音物で有数にいい音だと思う)が合わさってそれまで聴き慣れていた曲たちに新しい解釈と命が灯ったような作品です。ていうか、めちゃくちゃシンプルに言い換えると『アコースティックでもロックはできる』ということを僕はこのアルバムから教わったんですよね。ロックって電気信号だろ、という僕みたいな感性の人ほど聴いてみてほしい名盤。書き下ろしの表題曲も沁みる。